黄金川のスイゼンジノリ(川茸)

福岡県朝倉市の清流「黄金川」でのみ採れる、天然の淡水ノリ「スイゼンジノリ」。
通称「川茸(かわたけ)」とも呼ばれるこのノリは、江戸時代に幕府への献上品として、また高級食材として古くから珍重されてきた朝倉の特産物です。
この貴重なノリが生育する環境と、その製造過程をぜひ見学させていただきたいと思い、朝倉市で江戸時代から川茸作りを代々受け継がれている『遠藤金川堂』さんにお邪魔しました。

 

 

店内にはいろんな川茸の商品が陳列されていました。

 

 

商品の試食もさせてもらいましたが、プニプニした独特の食感があり、おいしかったです。

 

 

こちらは『壽泉苔』といって、川茸を昔ながらの方法で板状に乾燥させたものです。
商品名は江戸時代に秋月藩から頂いた由緒あるもので、料亭等で使われる高級食材です。
製法はのちほど書きます。

 

 

他にも、昔の商品ラベルや、

 

 

型抜きが展示されていました。

 

 

店舗の隣りには、川茸の由来が。

 

 

『遠藤金川堂』のご主人のご先祖様が黄金川で川茸を発見したのは、宝暦十三年(1763年)、この風味に必ず用途があるはずと「川茸」と名付け、その加工法の研究を重ねた結果、秋月藩主や将軍家にも献上されるようになりました。
明治、大正の世には博覧会にも出品され、多くの賞を受賞されたとか。

 

今回案内してくださったのは、『遠藤金川堂』17代目当主の遠藤淳さん。

 



江戸時代に建てられたという石碑の文面を説明してくださいました。
「献上品につき、誰も川に入って川茸や魚を捕ってはならない」

 

そしてこれがその加工前の川茸!

 

 

海の海苔とは全然違って、色は黒っぽいけどプニプニしていました。
流れがある川の中ではコロコロ転がるような形状です。

 

このままの状態だと日持ちがしないので、一度湯引きしてから塩もみして、漬物みたいに数日漬けこんでおくそうです。
それがこれ。
お湯に通すと色が緑色っぽくなります。

 

 

湯引きして塩もみして数日置いた川茸は、水で洗い、異物や色が悪いものを除去します。

 

 

川茸を洗って異物を取り除くのは、全部おばさんたちの手作業です。
大変だなあ。

 

 

 

川茸のプニプニした食感を味わう商品は、この状態を生かして加工されるんですが、それとは別に板状にする川茸もあります。
海苔生産者の私としては、こちらに特に関心がありました。

 

ちなみに予備知識。
海の海苔は、収穫してきた海苔をそのまま乾燥して板状にするのではなく、一度ミンチを通してドロドロのペースト状にしてから、和紙を漉くようにして型枠から海苔簾(のりす)に流し込み、乾燥します。
現在、海の海苔はほぼ全自動の乾燥機で製造されています。
一生産者が作る海苔の枚数は、一日およそ数万枚です。

 

 

では、川茸の乾燥はいかに?

 

 

 

たくさん並んでいる板状のもの。
これ何だと思います?

 

実は、瓦なんです!

 

 

川茸をミンチにかけてペースト状にするところまでは海の海苔と同じなんですが、川茸は瓦の上に広げます!
上の写真みたいに、型枠にドロドロの川茸を流し込み、コテで瓦の上に広げます。
そして、室内で乾燥。

 

そうやって出来上がった製品がこれ。

 

 

見た目は海苔と似ていますが、実際触れてみると、まるで紙。
黒い画用紙と言われたら、まず間違いなくそう思ってしまいます。
海の海苔とは違ってそのまま食べるのではなく、お好みの形に切って水に漬けてから使うのだそうです。
一時間ほど水に漬けると3~5mmくらいの厚さになるので、椀物に添えたり佃煮にしたり。
独特の雅な舌触りがあり、これが前述の高級食材『壽泉苔』となります。

 

一日に作れるのは数十枚、しかも乾燥するのに2週間は要するそうです。
海の海苔とは違って、効率的ではないしものすごく手間暇かかっています。
乾燥機を使うとパリパリになって割れてしまうので、時間をかけて乾燥させるのだとか。
瓦を使うのは、ほどよく湿度を吸収し、なおかつその曲がった形状が自然乾燥に具合がよいからで、瓦も昔ながらの城島産のものが乾燥に向いているそうです。

 

作業場の柱に、昔の作業風景の写真が飾られていました。
今も当時とほとんど変わらないやり方で作られています。

 

 

その後、川茸について紹介したTV番組のビデオを観せていただき、それから川茸が採れる日本唯一の清流黄金川へと案内していただきました。
川は『遠藤金川堂』さんから車で数分の距離にありました。

 

これが黄金川!

 


 

…清流?

 

想像していた清流のイメージとはだいぶ違っていました。
なんだか、田んぼと小川が繋がっている感じ。

 

川茸は水温が20℃前後の初夏や秋に一番成長するらしく、採取時期もその頃なんだそうです。
今回見学させてもらったのは6月中旬のむしむし暑い日。
その時期は採取はされていないそうです。

 

近づいてみると、川の中に川茸をたくさん発見!

 

 

川底に見える、黒くて丸っこいのが川茸です。
これがあの高級食材になるのかあ。

 

水面に浮いている緑色の藻は、ここ数年増えてきたんだそうです。
他にも別の藻も繁殖して、近年はそれらの藻を除去するのにすごく手間がかかるのだとか。
二日に一回は川の清掃をしているそうです。

 

近年は、藻の繁殖以外にもいろいろな問題が発生しているそうです。

 

 

上の写真は、黄金川に寒冷紗を張っています。
川茸は水温が25℃以上になると育たなくなるので、そのための防護策です。
昔は寒冷紗を張る必要がなかったのに、なぜこういった手間をかけないといけなくなったのか。
それは黄金川の上流に寺内ダムができ、また高速道路ができたことによって、近年目に見えて湧水の量が減り、黄金川の水位が下がっているからです。
水位が下がると、川底にダイレクトに日の光が当たるため水温も上昇します。
以前はひざ上まであった水位も、今では脛くらいまでだそうです。

 

その上流に向かうと、

 

 

 

ただの荒れ地みたいですが、黄金川の上流です。
20年前はしっかり川の水も流れていて、川茸の採取も行われていました。

 

さらにその上流。

 

 

これが、黄金川の水源です。

 

 

昔のように豊富な湧水もなくなり、かろうじてポンプによって川の水を保っているのが現状です。
現在、川茸の収穫量は激減し、ピーク時の18分の1くらい。
平成元年頃を境に、年々収穫量が減少しているそうです。
川茸と黄金川を取り巻く環境について、いろいろと考えさせられました。

 

黄金川からお店へと戻り、およそ1時間半の見学を終えました。
『遠藤金川堂』さんでは、年間80件以上の見学を受け付けているそうです。
以下、HPから。
「当社では、製造工程の全てを見学いただけます。これは、当社が約300年間受け継いできた伝統製法をごらんいただくことで、皆様に安心して川茸を召し上がっていただきたいと思っているからです。さらには、希少な川茸が育つ黄金川の素晴らしさを知っていただくことで、環境保護について関心を深めていただければと考えています。」

 

帰り際にいただいた、川茸を砂糖で炊き込んだお菓子『翠雲華』。

 

 

遠くない将来、川茸が食べられなくなる日が来るかもしれません。

 

川茸が採れるのは、世界でも唯一朝倉市にある黄金川だけ。
福岡が世界に誇るべき環境、そして食文化です。
この素晴らしい黄金川と、そこで育つ川茸をぜひ皆さんに知っていただき、その非常に希少な環境を保護する大切さをわかっていただきたいと思います。

 

 

 

【遠藤金川堂】
福岡県朝倉市屋永2949
TEL 0946-22-2715
FAX 0946-22-0707
HP http://kawatake-endo.com/

 

 

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